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このお話がどうやって生まれたかというと、処女作の “薔薇の東” の中で “泣く女” というキャラクターが出てくるんですが、そのシーンではじめて森で撮影することになったんです。森と言っても木更津の海岸近くのちっちゃな雑木林ですけど。それがドラマチックなヘアメイクをした女優さんを入れて画を切り取るとすごく綺麗で、もう、メルヘンだったわけです。これがほんまもんの “森ガール” 。自然というロケーションのダイナミズムと奥行き感にすっかり魅了されちゃって、で、次(の作品)はこの森に分け入りたい!と思って作ったのが本作なんです。

森ステキ!とわくわくしているうちに物語がでてきました。なので当初森が舞台であればよくてタイトルはSylvanでしたし、花のない世界、とかいう設定はあと付けですwそれと “薔薇の東” は、台本ってどうやって書くの?カット割りって何?という状態で、全体像も設計せずカメラをもって飛び出し、衝動に突き動かされて作ったんです。組み立て方も考えずパーツを先につくっちゃって。

しかも僕のイメージ自体が支離滅裂なので、話をまとめるのがすごく困難でした。シーンとシーンをつないだり、話の前後関係が理解できるよう、あとで台詞をいじくり回して、それは大変でした。おかげで妙にシュールな空気感がでたのはいいんですが、僕は基本的にはわかりやすく観飽きないエンターテイメント作品をつくりたいと思っているので、初回で反省して、今回は “わかりやすい” ことを念頭に作ってみたかったんです。

僕はもともとミュージシャンなんですが、曲を作るのはごく主観的で感情的でよかったんです。だけど映画はストーリーがあるので、お客さんから見たらどう見えるか?を良く考えないと成立しない。当たり前のことなんですけど、これは僕の個人的な挑戦でした。処女作が結果的にバラエティーの詰め込みになったので、今回は端正な童話をやりたかったんです。ただし、お話とキャラクターが古典的なので、役者さんや美術、ロケーションにはすごくこだわりました。

あと、関係者の皆さんには、キャラクターや花のない世界という設定のほうにわりと好評をいただいてるんですが、僕自身がすごく好きで最も描きたかったのは、まだ性も未分化な少年(少女?)ムイの、憧れ・嫉妬・恋愛感情・独占欲・喪失感・寂しさなどの感情がひとつひとつ整理できず、ぐちゃぐちゃになる感覚、物事を理解して成長するまでのほんの刹那にしかない醜くも美しい倒錯した感情なんです。少女趣味はまったくないんですが(おねいさんタイプのほうがすきです) “薔薇の東” で主人公の娘(10才の少女)の台詞を考えていた時から、彼女たちの感情がどこからともなく降りてくるようになったんです。

僕自身が極めておセンチで単純な人間なんで、そのくらいの年齢と相性がいいのか、どういうわけか大人役より子供役の感情を描くほうが明らかに得意です。また少年でもなく、今のところ少女なんですよね。ムイは、物語上、少年としましたが、構想は少女として立てました。三作目、四作目の構想も固まっていますが、やはり少女がキーです。僕にとって憧憬と嫌悪の対象。これは僕の初期の活動のコアになっていくと思います。

photo田中柾幸
監督, 脚本, 原作 (撮影, 編集, 音楽, 演出, 配役)

大阪府茨木市生まれ。92年から東京に居住。92年から95年まで活動したヴィジュアル系テクノユニット『VIDEOrODEO』では、キッチュで派手なパフォーマンスと独特のセンチメンタルな世界観で、90年代の東京アンダーグラウンドを沸かせたアーティストの一人に数えられる。 解散後は音楽界を去りファッション業界に転向。15年の沈黙をやぶり、処女作『薔薇の東』の完成で旧知の友人らを驚かせた。08年より『Cresson77』の組織名で活動、以来ファンタスティックな構想が絶えない。

好きな映画: デリカテッセン, 時計仕掛けのオレンジ, ハウス
好きな音楽: The Durutti Column, The smiths, The sea and cake
好きなたべもの: しめサバ
愛機: CANON EOS 5D-Mark2, Panasonic DMC-GH1, Apple Mac Pro