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この時代、花は世界の平和をつかさどるエレメント(要素)として珍重され、花のない国サラレムは花をめぐり敵国マシルカに攻め入り、何世代にもわたる戦争が続いていた。
花は古代マシルカに封印されてより生息数を減らし、一部ではもはや伝説と化していた。
平和をもたらすと伝わる花は人々の憧れとなり、花のない国サラレムでは、造花がもてはやされていた。

ムイは兄のリクに戦士として育てられた純真な少年。
幼いころ戦争で両親をなくし、兄とふたりでサラレムの森に身を潜め戦火を生き延びた。
リクはサラレムきっての戦士で、マシルカ侵攻の第一線で活躍している。
ムイは兄のような立派な戦士になることを夢見て、兄の遠征中、ひとりで剣の訓練にはげんでいる。

マシルカへの戦線が終結に近づいたころ、リクがムイの元に帰還する。
いよいよ花を手に入れるのも時間の問題、というリクの土産話にムイは胸をときめかせるが、翌日、終戦の知らせとともに、兄弟は “花はなかった” という思いもよらない結末をつきつけら れる。

花を手に入れるという大義を失ったリクは、罪もない人々を殺した自責の念に苛まれ、何かを探すように地面を掘り続けるようになる。
戦士に憧れて育ったムイは、剣を捨て奇行にはしるリクが理解できない。
リクに無邪気に剣の稽古をせがむが拒否され、反抗して鬼の棲むという森へ足を踏み入れてしまう。
そこにいたのは、朽ち果てて横たわる異国の服を着た美しい女だった。

女の美しさと母性的な身体に魅了されたムイは、リクに内緒で女をかくまい、介抱する。
ある日、森と戦地の連絡係のテオが、敵国マシルカの者がうろついているとリクの元へ駆けつける。
テオに連れられふたりが向かった先には、ムイの拾った異国の女がひとりでさまよう姿があった。

異国の女はソネと名乗るだけで、口はきけなかった。
リクは敵国の女を受け入れようとしなかったが、ムイとテオのあと押しがあって容態を見守ることになり、ムイ、リク、ソネ、三人の共同生活が始まる。

戦争が終わり、平穏が訪れるかのように見えた兄弟の生活は、正体の分からない異国の女の出現により徐々に歪みはじめる。
ますます苦悩するリク。
回復とともにリクに近づくソネ。
幼いムイは狂いゆく兄に失望し、独占していたはずのソネがリクに惹かれていくことに嫉妬する。
一方、目標を失い追い詰められたリクは、しつこくつきまとう敵国の女ソネに殺意をあらわにする。
しかしソネはリクの哀しみを理解し、リクを優しく抱擁する。
健気につくすソネにリクは徐々に心を開き、ソネに自らの過去と苦しみを打ち明けるのだった。
もう一方で、ムイはソネを拾った森で出会った人間兵器バジ(旧世紀の戦争の残物)との交流を通じ、戦士であることの哀しみを知り、次第に兄を理解し、成長していく。
三人は睦みあい、祝福され、誰もが幸せな日々がつづくと信じた。

しかし、物語はふたりの兄弟の宿命と異国の女の過去を紡ぎあわせ、花のない世界の終焉へと向かう。